EAROPH第18回世界会議とマレーシアの都市開発
(本稿は「新都市」2002年11月号に掲載されたものです。
ここでは写真等を省略させていただきました。)
EAROPH評議員・東洋大学教授 小浪博英
1.EAROPH第18回世界会議の開催
2000年に韓国の温泉保養地であるアサンシテイーで開催されたのに次いで、2年後の今回、マレーシア国クアラ・ルンプル市、シャングリラホテルで第18回EAROPH世界会議が開催された。
EAROPHの現在の会員は、個人会員・名誉会員248名、組織会員58団体で、決して大きな組織ではないが、日本からは67名、3団体が登録されている。構成国は、オーストラリア、バングラデッシュ、中国、香港、インド、インドネシア、日本、ジャマイカ、ケニヤ、韓国、マレーシア、ネパール、オランダ、ニュージーランド、パキスタン、フィリピン、ポルトガル、シンガポール、スリランカ、タイ、ウガンダ、イギリス、アメリカ合衆国、ベトナムの24ヶ国・地域となっている。
今回の参加者は日本、オーストラリア、ニュージーランド、ドイツの他アジア各国からの約300名で、日本からは竹林寛副会長、佐々波秀彦理事、佐保肇評議員をはじめ、EAROPH会員が数名の参加であった。テーマは「革新的新技術と都市の管理」であり、2002年10月7日から10日までの4日間にわたり60報余りの論文が発表され、熱心な討議が行われた。特に今回はUNDP-TUGI, UNESCAP, UN-HABITATと共同で開催されたので、低所得者住宅に関する論文がかなり多く見受けられたが、とりわけペナン・ジョージタウンにおける急激な都心部の衰退に関する報告が興味深かった。その原因が対岸のバターワースの発展によるものなのか、あるいはペナンそのものに原因があるのかはよく分からなかったが、住居も事務所も軒並み衰退し、ピーク時の三分の二から半分程度にまで機能が低下するとの予測であった。筆者は「新幹線が地域開発に及ぼす影響」という題で、特に上越新幹線沿いの新幹線通勤と地域開発を紹介した。
2年後の第19回世界会議はオーストラリアのメルボルンで開催することと、新しいEAROPH会長にマレーシア国の文化・芸術・観光省副大臣であるイエン・イエン氏を選出して、10月10日深夜のさよならパーテイを最後に散会した。
なお、10月6日に開催された評議員会で本城先生のご逝去を報告するとともに、竹林寛副会長のEAROPHに対する永年の貢献が評価されて、同氏が名誉会長に推挙された。
2.マレーシアの概要
マレーシアは1963年に独立連邦国家になったアジアの新興国で、1965年にはシンガポールがマレーシア連邦から分離独立している。国王は連邦を構成する13州の内、ペナン、マラッカ、サバ、サラワクの4州を除く9州のサルタンが5年ごとの交代制で務めており、英連邦加盟の立憲君主国である。人口は約2200万人、国土は日本より少し狭い33万平方キロメートルである。経済的には既に一人当たり国民所得が4000米ドルに近づこうとしており、我が国の昭和40年代を思わせるような活気に満ちている。
現在のマハテイール首相の任期は2003年秋までであるが、未だ後継者が明らかでなく、既に高齢となられた同氏の続投もささやかれている。
高速道路の建設は未だ十分でなく、いわゆるアジアハイウエイである西海岸沿いの一本だけがマレー半島を南北に貫いている。それでもクアラ・ルンプル周辺は整備が進んでおり、環状の高速道路がほぼ完成している。東海岸のタイ国境に近いコタバルからは未だ高速道路がないため、約300キロの道程を7時間かけてタクシーで駆けつけた日本人参加者がいた。料金は1万円強であったようだ。
鉄軌道は国土の西海岸と東海岸を縦貫するマレー鉄道(KTM)、KL周辺の通勤電車であるKTMコミューター、KLセントラル駅と新国際空港(KLIA、1998年6月開港、総面積1万ヘクタール)を結ぶ空港特急(ERL、唯一の標準軌で最高速度160キロ、2002年開業)、KL市内のプトラLRTとスターLRT(一部のみ1999年7月開業)、KL市内のモノレール(2003年開業予定)、プトラジャヤ・モノレール(工事中)がある。マレー鉄道はバンコックからシンガポールまでの国際列車が有名であるが、インターネットで調べてみると、高速道路の開通により高速バスが凌駕する勢いで、あと何年もつか心配しているという記事が載っていた。
3.クアラ・ルンプルの都市開発
クアラ・ルンプルは人口約100万人、都市圏人口約200万人のマレーシア第一の都市で、近代的高層ビルが林立している。念願のLRTも1999年7月に一部開通し、都市交通問題は改善の方向にある。タクシー料金は一般的に安く、1時間当たり50リンギット程度、日本円で1500円くらい、メーターで乗れば近距離は5リンギット、150円くらいである。市内はいたるところで建設工事が実施され、まさに高度成長の面影であるが、なかでもKLCC(Kuala Lumpur City Center)の開発は目を見張るものがある。
KLCCプロジェクト全体の敷地はSelangor Turf Clubと呼ばれていた馬場跡地約40ヘクタールで、マレーシアの石油会社であるPETRONASが中心となって計画を進め、設計はアメリカのCesar Pelli & Associationとマレーシアの建築家の手による。敷地のうち約37%を建築敷地に、残りを公園等の空地としてある。公園は敷地全体の中央部に置き、それを取り囲む形でビルを配置してある。ツインタワーは敷地西側の、入り口に相当する所にそびえており、1991年に認可を得て1993年に基礎工事に着工し、1996年に完成した高さ452メートル、地上89階の、目下世界一の高層建築で、西側が日本の施工した1号館、東側が韓国の施工による2号館である。KLCC全体での現在の総床面積は約220ヘクタール、これはクアラ・ルンプルの事務所総床面積の約四分の一にあたる。更に60ヘクタールの増床を計画しており、これが完成すると約三分の一となる。ちなみにツインタワーの入居率は現在82%であるとのことであった。
都心部にこのような開発を行うことは交通混雑を助長するとの議論もあるが、道路を立体的に引き込んだり、まだ完成はしていないがLRTを引き込んだりすることにより解決を図ることとなっている。これだけの集積が進められれば、ここがクアラ・ルンプルの新しいシテイーセンターになることは間違いない。
ツインタワーの床の用途は地下1階から4階(日本の数え方では5階、以下同じ。)までが商業系で約300店舗が出店しており、5階から最上階の88階までが事務所系である。もっとも、説明を受けたのは東側に位置する韓国が施工した第2タワーだったので,日本が施工した西側の第1タワーは異なるかもしれない。41階と42階のところに両ビルをつなぐダブルデッキのスカイブリッジがある。ちなみにエレベーターも1籠26人乗りダブルデッキで、2つの籠が上下に連接されており、奇数階専用と偶数階専用とに分かれているが、奇数階から偶数階へ行く時や、途中で気が変わった場合などの乗り方を聞いてもよく分からなかった。展望階は83階で、42階での乗り継ぎシステムになっている。
夕方雷雨に見舞われ、予定の借り上げバスが1時間待ってもやって来ず、タクシーを拾おうとしたが、これまた1時間近い行列があったので、夜のパーテイーをキャンセルし、4階のレストラン街で油を売って、8時過ぎにタクシーでホテルに戻った。KLセントラルを中心とするLRTの一部区間は開業しているものの、KLCCには繋がってなく、モノレールの開通も遅れていて、タクシーもなかなか拾えないという、開発過渡期の不便さをしみじみと味わうこととなった。
寸暇を見つけて中央駅に近いオールドタウンの方に足を伸ばしたが、最も古い建物は19世紀末期のもので、英国統治時代の総督府が使っていた建物などがあり、その脇に石油会社の近代的ビルがそびえる様は異様であった。また、地盤沈下が進んでいるらしく、建てた年代によって基礎の高さが異なっており、軒高が不連続となっている。軒の低く見える建物はその分だけ床も道路面から下がっているのである。
4 プトラジャヤの都市開発
プトラジャヤニュータウンは面積4,600ヘクタール、クアラ・ルンプルから約30キロメートル南に来たところにあり、新しい国際空港へ行く途中にある。一帯は椰子林だった所をマレーシアのPalm Oil Estateが買収し、それを政府が買い上げたものである。事業の実施は特殊法人であるPutrajaya Corporationが担当しており、現在の進捗は面積ベースで30%、人口ベースで10%である。設計はマレーシアの建築家グループとのことであるが、キャンベラの影響を強く受けているように見受けられる。Putrajayaの持つ意味はPutraがPrinceで、JayaはSuccessfulだそうである。
中央には川を堰き止めて造った600ヘクタールの人工池とCBDを配し、全体を20地区に分けて、官公庁地区、複合利用地区、市民・文化地区、商業地区、スポーツ・レクレーション地区、住宅地区としている。人口は2010年を目標に33万人とし、将来的には75万人への拡張を考えている。中央政府が全て移転する計画で、ここでの就業者数は現在約2万人、2005年には20万人の計画である。
プトラジャヤの交通は70%をタクシー、バス、モノレールでさばく予定で、現在はバスのみがサービスしている。タクシーは間もなく開業し、モノレールは工事中である。クアラ・ルンプルから30分間隔で走る空港特急の各駅停車が最高速度160キロ、所要時間30分程度でプトラジャヤに到着し、そこからモノレールやバスが四方にサービスすることになる。また、クアラ・ルンプルからの電車はそのまま国際空港へ行くので、国際空港まではわずか数分である。空港特急はノンストップ特急がやはり30分間隔で走っており、これはKLセントラルから空港まで30分で着くが、プトラジャヤには停車しない。
5 おわりに
2年ごとに開かれる世界会議の間の年にあたる2003年9月には、長崎でEAROPH地域セミナーを計画しているので、会員諸兄の多数のご参加をお願いする。詳細は改めてご連絡します。