「人材の育成」
一般社団法人国土政策研究会 専務理事 小浪博英
(本稿は2022年2月「国土と政策」No.49 p.70に掲載されたものです。)
世界中が一昨年からコロナウイルスによる、今までに無いような騒ぎになっている。その中でオリンピックとパラリンピックを実施できた我が国はとても恵まれていたのかもしれない。関係者の努力は高く評価されるところである。
さて、そのコロナ対策としてのワクチンであるが、外国勢が2兆円も3兆円も売り上げている中で、日本企業はせいぜい千億円台の下の方で、外国勢より一桁少ない。それは何故かと製薬会社の研究開発費を調べてみると、2020年決算で、スイスのロシュが約1兆6千億円、アメリカのメルク、ブリストル、J&J、ファイザーがそれぞれ1.5兆円から1兆円、スイスのノバルテイスも1兆円、イギリスのGSK、アメリカのアッヴィとイーライリリー、フランスのサノフィがそれぞれ約7000億円で、残念ながら日本企業はトップ10に入っていない。別資料では製薬会社売上高ランキングで世界10位の武田薬品工業の2021年度研究開発費が4558億円であるとなっている。
何故日本企業がかくも先行投資をしなくなったのか。また、先見の明が無くなってしまったのか。日本人ノーベル賞受賞者も多くは外国で研究を重ねて、雑用が多い日本とは違って、外国では研究に没頭できたと述べている。
筆者は、これはやはり企業のトップの責任であると共に、科学技術庁を無くしてしまい、国立大学等では5年の任期制を導入しようとする近視眼的な国家行政にも責任があると思う。社長が奈良訪問中に東日本大震災が発生した東京電力にしても、福島第一原子力発電所がアメリカの指導のもとに建設され、発電装置が海面上数メートルの低いところに置かれていて貞観地震なみの津波が来ればひとたまりもないことは分り切っていたはずである。また、JR東海にしても中央リニアで中央アルプスの地下を貫通させるには科学的に未知の分野が多く存在することが予想できたはずである。これらはすべてトップ、またはそれを取り巻く人々の油断と言わざるを得ない。ワクチン開発もしかりである。
これからの日本を考える時、縄文の昔からこの島国で知恵を出して幸せを築いてきた先人の努力に思いを馳せて、今やるべきことを冷静に考えてみる必要がある。
それは人材の育成ではないだろうか。電車の中で人を刺したり、生まれた赤ちゃんを自分で殺してしまったり、どうしてそのような若者が出てきてしまったのか。みんなで反省しなければならない。その原因は核家族制による三世代の分離と少子化、更には体罰の禁止にあるような気がする。一緒に住んでいるおじいちゃん、おばあちゃんは孫を可愛がる一方で、しっかり叱りつけていたと思う。また、私などは6人兄弟の下から2番目だったので、自分自身がしっかりしなければ生きていけないという思いを自然と身に着けることができた。体罰はいけないというけれど、6~7歳くらいまでは理屈だけではなく、ある程度の体罰が必要なのではないだろうか。筆者も小学校低学年の時いたずらをして、水の入ったバケツを両手に持って廊下に立たされたり、男の先生に竹刀でお尻を打たれたりした思い出がある。
決断力と才知の象徴である寅年にあたり、また、筆者も傘寿を迎える年にあたり、余計な一言をしたためてみました。