2003 8. 観光地整備に関する一考察 / 日本国際観光学会全国大会 2003.10

観光地整備に関する一考察

(本稿は2003年10月、桜美林大学で開催された日本国際観光学会で発表したものであり、論文集は印刷中である。)

 正会員 小浪博英

1 序

 観光地の整備は、観光が世界最大の産業であることからしてもその必要性を改めて述べる必要はない。そのための政府施策としては、昭和24年の「広島平和記念都市建設法」、「長崎国際文化都市建設法」以来、横浜、神戸、京都、奈良、別府、熱海、伊東、松江、芦屋、松山、軽井沢について昭和26年までに特別の都市建設に関する法律が定められた。

 更に近年では、「国際観光文化都市の整備のための財政上の措置等に関する法律(昭和52年)」、「国際会議等の誘致の促進及び開催の円滑化等による国際観光の振興に関する法律(平成6年)」、「外国人観光旅客の来訪地域の多様化の促進による国際観光の振興に関する法律(平成9年)」などの施策が加わった。しかし、何れも大臣が基本方針を示して都道府県または市町村が国際観光ホテル・旅館集積地域を中心として計画を立て、それを大臣が認定する仕組みとなっており、具体的支援措置も地方債の支援、各種許認可の特例または簡素化、国際観光振興会の協力程度にとどまっており、その実効性について疑問を持たざるを得ない。本論では観光地整備のあり方について、まちづくりの観点から考察する。

2 政府施策の問題点

 図1は「外国人観光旅客の来訪地域の多様化の促進による国際観光の振興に関する法律」の解説のために北海道庁が作成した手続きの流れ図である。

図1「外国人観光旅客の来訪地域の多様化の促進による国際観光の振興に関する法律」における手続きの流れ1)

 この仕組みによって計画が確定すると、この計画の実現のため国および地方公共団体による助言・指導その他の援助が受けられるとともに、国際観光振興会の海外における宣伝等が行われ、さらに、外国人観光旅客に対する共通割引乗車船券発行手続きの特例や通訳案内業法に基づく地域限定通訳案内業の特例などが受けられる。

 さて、この仕組みはそれなりに評価して良いものであろうが、ここでの問題点を制度上の問題と内容の問題とに分けて考察してみる。

 まず制度上の問題であるが、地域を設定して知事、市町村長の協議が整うまでの時間と費用である。この制度に類似している制度として「地方拠点都市地域の整備及び産業業務施設の再配置の促進に関する法律」があり、同じく大臣の示した基本方針に基づいて知事と市町村長が協議の上、市町村長が基本計画を策定することとなっている。そのための調査費は国土総合開発事業調整費で支援することとなってはいるものの、その間の調査、計画案作成、協議等に少なくとも2年は要するものであるし、調査費を調整費に求めようとすればさらに1年間の要求のための時間を要するのである。外客誘致の前述の計画がこれと同じではないが、計画の決定までに1~2年の時間と相当な調査を要すると考えるのは自然であろう。また、外客の誘致は全国画一ではなく、歴史、自然、文化、地場産品等、地域別に千差万別の工夫を要するものであり、大臣が基本方針を定めることが適当かどうかも議論を要するものである。

 次に内容であるが、海外旅行にたけた旅行者であれば、海外において日本人のパスポートがいかに有効であり、博物館や切符等がパスポートを見せることにより割引価格で入手できることが多いことを知っている。何故それが我が国においては今時の法律事項であるのか。また、通訳案内業の特例はボランテイアが通訳をして若干の謝礼を受け取ることの障害になりはしないかなどの懸念が残る。

 以上の例からも、各種政府施策が時間の観念と実効性の面で若干現実離れしているのではないかとの疑念を持たざるを得ないのである。以下、事項別に検討する。

3 観光目的物の整備

 観光を振興させるのだから、その目的物、例えば歴史的・文化的遺産、動植物・温泉等の自然物、タワー・建物等の人工物、飲食物、土産物、イベント、特別なサービスなどであろう。これらを選択的に整備するための財政的支援や組み合わせ戦略に関する知見が必要であり、大分県の一村一品運動はその好例であろう。

4 交通・案内施設の整備

 交通はスピード、快適性、安全性、コスト、信頼性などにより評価されるが、観光交通の特性としてそれらの中に散策、トレッキング、サイクリングなどが組み合わさることがある。これらは観光目的物との相関が高い。また、花見やイベントなどは短時間に集中する特性があるので、多様な交通対策が必要となる。また、案内施設については日本語、英語、中国語、朝鮮語の4カ国語の表示が必要となろう。その掲出方法も高度な工夫が必要となる。

5 観光産業施設の整備

 休息、飲食、買い物等の施設は不可欠であり、そのための配置計画、敷地・建物の整備、建物の魅力付け、交通との連携、床コストの低廉化、観光客の変質への対応性、バリアフリー化等を検討し、そのための指導・助成が必要となる。

6 町並みの整備 

 上記3項目と関連するが、観光目的にふさわしい町並みは不可欠である。近年、全国各地で歴史的町並みの整備が行われているが、何れも観光目的であり、居住者の便宜のためであるかは疑わしい。ここで注意すべき点は、居住者が快適でない歴史的町並みの維持管理には公的資金が必要となることである。

7 割引等誘客戦略の整備

 運輸事業者、観光産業事業者の両方に言えることであるが、空気しか運ばない時間帯の交通機関は思い切った割引をしても良いであろうし、観光産業事業者はリピーター獲得のための料金戦略を持つべきである。常連客は大幅割引でも良いであろうし、閑散期は原価に近いサービスをすべきであろう。パスポートを有する外国人に対する入場料金無料化、海外で購入してくる乗車船券の大幅割引等、国際相互理解を深める精神にのっとって積極的に導入すべきである。開発途上国の観光客が歴史博物館を敬遠したのでは観光の意味がない。

8 情報の整備

現今では、観光産業に従事する者はホームページを操作することが不可欠であろう。世界のサーチエンジンにリンクしてもらえるような独自のホームページを持って、積極的に観光目的物や戦略について発信すべきである。

9 情報施設の整備

 ブロードバンドによる情報基幹回線の整備、端末の提供、ホテル等での回線無料サービス等が必要である。特に観光地は通年需要が少ないので、初期投資に対する税財政上の助成措置が必要となる。

10 研究・研修施設の整備

 いかなる観光地であっても、研究・研修を怠っては進歩がない。外国語の研修は言うに及ばず、常にデータを分析して、定期的に内部の研究発表会や外部講師を呼んでの研修会を実施するなどの努力が必要である。そのための施設は公的に整備すべきであろう。

11 結論

引用文献

1) 北海道庁ホームページ法令索引

http://www.pref.hokkaido.jp/keizai/kz-soumu/keizaibu/houreisyu/32.PDF