2003 3. 都市計画調整/国土交通大学校講義ノート 2003.5.27

国土交通大学校 総合過程 技術マネジメント科研修

東洋大学国際地域学部教授 工学博士 小浪博英 konami@pluto.dti.ne.jp http://konamike.net/hiro/

都 市 計 画 調 整

1 土木計画 

 土木学会に「土木計画研究委員会」ができたのは1966年である。それ以来、土木学会と建設省土木研究所等が中心となって、本州四国連絡橋や東京湾横断道路の架設、高速道路網の構築、都市の開発などを行ってきた。しかし、最近の研究会では、計画・政策に関する報告が少なく、計量的なものが多くなっている。この辺で、もう一度シビルエンジニアリングの基本に立ち返って、世界の中の日本を考える必要がある。(「土木計画」彰国社 1999年参照)

2 都市計画調整の基本

 調整とは一体何か。ただ、人の意見を聞いて妥協案をつくるだけであれば、それは技術が無くてもできる。技術者としての調整に必要な資質は次のようになる。

勉強と経験に基づくしっかりした自分の考えを持っていること。

例えば道路の幅員について30m、25m、20m、16mと意見が分かれた時どうするか。

① 広い方が良いから30mか25mにする。

② 早く同意を取りたいから20mか16mで妥協する。

③ 将来の交通量配分の結果と全体のネットワークの特性をみて決める。

④ それぞれの理由を良く聞いたうえで、自分の考えを説明し、説得に努める。ただ

し、ゴリ押しをしない。

 技術者としては瞬間的に③を理解して④に進む心がけが必要であろう。

人の意見を引き出す聞き上手であること。

これは、我慢が必要となる。特に忙しい時に時間をとられることが耐え難くつらいことは多い。しかし、相手はその瞬間がすべてであり、そこでうまく話せたかどうかは意志決定に致命的に影響する。決して話の腰を折ってはいけない。アイコンタクトも重要となる。

分かりやすく説明できること。

これは内容を熟知していないとできない。10を知って3話すのと、3だけ知って3話すのとでは天地の差がある。3だけ知って3話す場合はどうしても専門用語を多用したマニュアル的表現となり、いわゆる話し言葉にはならない場合が多い。

また、関連する他の知識を持ち合わせるかも重要となる。例えば、公共用地取得時の5000万円控除について話すときは、買い換えの特例を合わせて説明する必要があるし、買い換えが認定される条件について当該地域を管轄する税務署の考え方を調べておく必要がある。更に、用途地域の変更を伴うような場合はその内容を知っておく必要がある。

ひとがついてくる人徳を備えていること。

これは誰にでもできるわけではない。また、相性とか波長とかいわれる人間的要素が介在するので、そう単純な問題ではない。しかし、管理職になれば調整が主たる業務にならざるを得ず、徳を向上させる努力が必要である。例えば、一芸に打ち込んで心の修養をする、歴史書を読んで教養を身につける、海外に出て広く世界を眺めてみる、家庭の円満を保つ、などであろうか。

山本五十六の教えを忘れないこと。

 「やってみせ、説いて聞かせてさせてみせ、誉めてやらねば人は動かじ。」

 現在のように複雑の機器が増えると必ずしもやってみせることは出来ないかもしれないが、やれそうな雰囲気だけは管理職として持っておく必要がある。でなければ、「あいつにはどうせ出来ないのだから。」と陰口をたたかれることとなり、十分な成果が期待できない。

心身が健康であること。

 心身が健康でなければ優れた考えも浮かばないし、咄嗟の判断を誤ることともなる。適度な運動、ストレスの発散、6-7時間の睡眠などは決して欠かすことができない。

3 「都市計画」と「まちづくり」

 「都市計画」という言葉にはどうしても権力、権威という雰囲気が付いてまわる。これは大正8年の旧都市計画法で都市計画の決定権限が一方的に官側にあった名残であろう。一方、「まちづくり」という言葉には住民参加の雰囲気が漂っている。ただし、「まちづくり」という言葉からは100m道路、都市高速道路、都市高速鉄道などの必要性が伝わってこない。つまり、広域的社会基盤を除いた都市計画が「まちづくり」なのであろう。

 従って、「まちづくり」だけでは健全な都市が育つことは期待できないが、既に広域的社会基盤が整備された地域においては「まちづくり」の必要性が高くなる。現在の社会は重厚長大から短小軽薄に移りつつあるので、「まちづくり」という言葉が闊歩しているが、これに対して軽々に同調してはいけないことと、「まちづくり」無くして都市計画も進まないことを肝に銘じておく必要がある。

4 都市計画の手法

交通計画においてすべての交通機関を取り込んだ総合交通計画という言葉が定着しているが、都市計画はもともと総合的分野であり、都市計画法にみるとおり、幹線交通施設や都市公園から学校、病院、図書館の位置にいたるまで都市計画に定めることが出来るようになっている。都市計画の調整ができないために現在の都市計画には定められていなだけなのである。例えば、空港は都市との関係が密接であるにも関わらずその位置を都市計画で定めてあるのは函館空港、旧岡山空港、東京調布飛行場だけである。克っては高速道路やバイパスも都市計画で定めることは困難であったが、現在では殆どの幹線道路が都市計画で定められるようになった。

このように都市計画の総合性を発揮するためには、次のようなバランスを考えることが必要である。

土地利用と交通施設・公園その他の都市施設とのバランスがとれている。

 旧建設省で環境アセスメントと並んで交通アセスメントを実施しようという動きがあったが実現しなかった。その面影は大規模店舗立地法の中に多少残っているだけである。しかし、これは必要なことであり、東京都心部での大規模再開発は必ず交通機関への負荷の増大と電力・下水道等の供給処理施設への負荷の増大も伴うのである。また、関西国際空港等は空港そのものの建設費よりも関連交通施設の整備費の方が大きくなったりする。交通アセスメントを実施しないで大規模土地利用が実現してしまうと、結果として交通施設等へツケがまわるのである。東京23区を例にとれば、三全総までは徹底した立地抑制策を採り、中曽根内閣の四全総で山手線の内側の高度利用が提唱された。そのため発生したのがバブル経済であり、山手線内側の交通混雑である。多くの超高層ビルはその外部不経済を負担しているとは言い難い情況にある。

 また、これら大規模再開発に連動して公開空地等が増加はしているが、まちが緑になったという印象はない。やはり社会基盤としての大規模都市公園が必要なのであるが、通常の再開発事業はその施行面積が小さいので大きな都市公園を生み出すことができないのである。土地区画整理法による土地区画整理事業が全国で9,307地区、313,798ヘクタール、1地区あたり平均面積33.7ヘクタールであるのに対し、都市再開発法による市街地再開発事業は524地区、922ヘクタールで、1地区あたり平均面積は1.8ヘクタール(以上、平成9年都市計画年報)でしかない。これではある程度まとまった緑の空間を生み出すことはできない。やはり区画整理により公共施設の整備をしないと、まちづくりはできても都市計画はできないのである。

過去・現在・未来のバランスがとれている。

 まちは歴史の中に生きているので、その時系列を大切にする必要がある。京都市の場合、保全と開発が常に葛藤するのであるが、現に150万人市民の生活を考えるとき、保全だけではうまくいかない。そのため、駅周辺や五条通り周辺は開発し、お池通り以北は保全するという基本方針が出されている。このように、まちの何処を保全して、何処を再開発し、将来のための土地は何処に取っておくという配慮が必要になる。そのバランスが取れていなければ魅力あるまちにはならないのである。

景観、防災、防犯、環境、福祉、教育等への配慮がなされている。

 多くのバランスの中でこれらは時として忘れられてしまうことが多い。特に景観と防災はまちの魅力や安全性を左右するものであり、今後の都市計画の重要な分野であると考えられる。サステイナブルな開発という言葉が世界中に流布されているが、安全無くしてサステイナブルもないし、景観が悪ければいずれ改変されてしまうのである。サステイナブルな開発というとき単に環境保全だけを議論するのではなく、健全な人間の生活について議論することを忘れてはいけない。

あらゆる都市整備手法について効率よく考慮されている。

 まちづくりの手法には、大きく分けて、規制・誘導的手法と、事業化手法とがある。

① 規制誘導的手法は、線引き、用途規制、53条規制、地区計画等がある。

② 事業化手法は、土地区画整理事業、市街地再開発事業、開発許可といった面的整備

と、公園整備、街路整備、下水道整備のような個別整備とがある。

 これらの手法を良く理解して効率よく推進することが優れた都市計画を実現する基本である。 

5 これからの課題

 21世紀を迎えるにあたり、差し迫った課題としては次のようなものがある。

① 高齢化対策。

② 事業財源、とくに公的資金の減少。

③ 理想と民主的合意形成の葛藤。

④ 中心市街地対策。とくに空き店舗の増加対策と駐車場整備。

 少しは時間をかけても良い課題としては次のようなものがある。

① 都市の美化。とくに電線類の地中化と都市緑化。

② 災害に強いまちづくり。

③ 環境の向上と公害の防止。

④ 情報化への対応。

⑤ 国際化への対応。

⑥ 歴史的遺産の保全。

 世界を正しく認識したうえで、これらの課題に対し十分調査研究し、あらゆることに対して「何故だろう」という気持ちを忘れないこと。換言すれば、土木計画のよって来る目標を見失わずに、優れた調整能力を発揮すれば、必ずや地域間競争にうち勝てる地域が実現できるのであり、そのための人材が求められている。(おわり)