2002 6.心の通った交通のマネジメント/ 計画交通研究会会報 11月号

計画・交通研究会会報11月号

□ Opinion 「心の通った交通のマネジメント」           

小浪博英

 「交通システム、交通スト、交通バリアフリー、交通マヒ、交通ラッシュ、交通ルート、交通安全、交通案内、交通違反、交通遺児、交通医学、交通運行、交通科学、交通革命、交通監視、交通管制、交通管理、交通企画、交通機関、交通規制、交通規則、交通技術、交通経済、交通計画、交通警察、交通圏、交通現象、交通公害、交通孔、交通工学、交通広告、交通広場、交通混雑、交通最適化、交通災害、交通裁判、交通市場、交通指導員、交通施設、交通資本、交通事業、交通事故、交通事情、交通遮断、交通取締、交通手段、交通手当、交通需要、交通渋滞、交通巡査、交通傷害、交通障害、交通情報、交通状況、交通状態、交通信号、交通制限、交通制御、交通政策、交通整理、交通切符、交通戦士、交通訴訟、交通騒音、交通体系、交通地獄、交通調査、交通調整、交通動脈、交通道徳、交通能力、交通犯罪、交通費用、交通標語、交通標識、交通分離、交通弁、交通保安、交通法規、交通妨害、交通密度、交通網、交通問題、交通予測、交通容量、交通抑制、交通理論、交通流量、交通量、交通労働」

 これは今評判の「英辞郎」から交通で始まる主な言葉を抜き出したものである。数え違いがあるかもしれないが90語だと思う。この他にも交通配分、交通弱者など、いくつかあると思うので、全部では100語を越える交通から始まる言葉を私達は使っているが、本当に使いこなしているだろうか。

 最近、日本ホスピタリテイ・マネジメント学会の副会長を拝命した時に「マネジメントとは何だろう?」ということを思い悩んだ。一般には管理とか経営とか言われているが、そうではない。マネジメントというのは何らかの目標に対しての最適解を探し出し、それを実行する「心」の問題ではないか。その証拠に、管理学科や経営学科を優秀な成績で卒業した社長でも、世の中で成功するとは限らないのである。そこにはマニュアルやら数式では律しきれない何かがあると思う。

 交通関係者がこれだけ努力をしているにもかかわらず、交通渋滞は減らず、満員電車も少ししか改善されず、東京通勤圏内の乗換えで30分以上も待たされることがある。一方では1万人近くの人が毎年自動車交通事故で亡くなってしまう。東京の休日の運転はマナーが悪くて閉口するし、某私鉄に至っては家路を急ぐお客を乗せた電車は駅に停まったままで、その脇を車庫に帰る回送電車が悠然と追い越して行く。また、ほんの100メートル先の信号は青なのに、その手前の信号が赤になっている。ましてや、高速道路でわざわざ事故を起こしたり、大して市街化していない所の立派な2車線道路の速度規制が40キロだったり、みんなで交通に関する不満を書き出したら一冊の本になるくらい言いたいことが出てくると思う。

 これからの交通計画は単に計画を立てるのではなく、心の通った交通マネジメントが必要ではないだろうか。それには交通事業者、交通技術者、利用者、行政等が一体となって考えることが重要である。運転者にも交通事業者にも歩行者にも心が通っていないから無用な交通摩擦を起こすのではないだろうか。近くの団地で、せっかくボンネルフの道路を作ってあるのに、そこを高速で車両が通過するので普通の道路よりもっと怖いと主婦が言っていた。

 20年も前の話しですが、エジプトではパンの値段と交通運賃は政策的に安くしてあると政府の高官から聞いたことがある。考えて見れば、人は食べることと移動することがなければ生きていけない。エジプトの政策は極めて明瞭である。我が国においても運転者や歩行者を含む交通関係者が交通の重要性をもう少し深く認識し、心の通った交通者または交通事業者になることを願って止まない。冒頭に掲げた90語のどれを自分が担当しているかを良く考えて、安心、安全、快適な交通環境を一日も早く創り出す必要がある。

(計画・交通研究会正会員/東洋大学 教授)