1999 2.成熟・安定・縮小成長時代の都市づくり/「都市計画家」NO.24、都市計画家協会

成熟・安定・縮小成長時代の都市づくり(「都市計画家」NO.24、都市計画家協会1999年秋)

東洋大学国際地域学部国際地域学科

教授  小浪博英

1 はじめに

 与えられた課題が成熟、安定、縮小成長時代の都市づくりということですので、昭和50年代以降のことを考えたいと思います。当時の日本はニクションショック、オイルショック、公害問題と、たてつづけに危機に見舞われ、まちづくりの専門家はどうしたらよいのか分からずに暗中模索をしていたときでした。その中で国土庁が昭和49年に発足して、何か仕事をしなさいということでしたので、私どもは一生懸命考えた末に第3次全国総合開発計画を策定したものです。たまたま各種指標が安定傾向を見せていたので、3全総でも安定成長をうたい、首都圏の人口をこれ以上野放図には増やさないという方針を出しました。これは後に、中曽根内閣により山手線内側の高度利用を進めるという政策転換によって、無惨にも打ち砕かれてしまいますが、当時は本気で東京23区の人口・産業の抑制を考えていたのです。そんなことができるはずはないというご批判も当然ありましたが。それからしばらく高度成長が続いて、とうとう東京一極集中という言葉ができてしまいました。もはや3大都市圏ではないのです。東京圏だけが肥大化しているという認識です。これが昭和60年代から平成3年ころまで続きます。その後にくるのがバブルルの崩壊です。民間投資はすっかり影を潜め、もっぱら公共事業で頑張ろうとしても、今度は地方財政が疲弊してしまい、これもうまくいかなくなってしまいました。

 一方、合計特殊出生率の減少は止まるところを知らずに、とうとう1.3近くまで落ちてしまいました。1人の女性が生涯に1.3人しか子供を産んでくれなくては、1ジェネレーションで3分の1ずつ人口が減ることになります。既に地方に行くと、あちらこちらに廃屋や廃止された小学校があります。

 しかし、もし経済が毎年1%の成長を達成できるとすれば、30年で約35%の成長になりますから、経済規模としては減少しないですむことになります。むしろ、元気老人を活用すれば経済規模の拡大さえ不可能ではありません。

 このような前提でこれからの議論を進めてみたいと思います。

2 未来が見えるか?

 まちづくりの担当者は常に未来を予測しようとしてきました。都市計画の決定は少なくとも10~20年先の予測をすることが必要とされています。将来人口の予測、将来交通量の推計、将来必要となる宅地需要の推計などは耳にたこができるほど聞かされてきました。これらの予測ができていないと、せっかくの都市計画の提案が世の中で認知されないからです。しかも、これらの予測は全て右肩上がりでした。現在の社会情勢からすれば、今後において全て右肩上がりということはもはや考えられません。少なくとも人口は確実に減少傾向をたどることになります。交通量については一人あたりの活動が活発になったり、大量輸送機関から自動車への転換が起こったりすれば自動車の交通需要は増加するでしょうし、宅地についても各人が現在の2倍の床面積を必要とすれば、少なくとも21世紀中における需要の減少はないかもしれません。

 つまり、現在必要なことは、単なる未来予測ではなく、市民、国民の要求をいかに把握するかということになります。みんなであきらめるのではなく、みんなの希望を満たすためにはどうしたらよいか、それを考えなくてはいけません。例えば、これらを列挙すると次のようになるでしょう。

① 住宅は自動車が2台以上置ける駐車場があり、居間と客間を確保できる。

② お年寄りが散歩をしたいときに、安心して散歩できる空間が近くにある。

③ 子供の面倒をみてくれる両親等と同居できる。

④ 通勤は片道1時間以内で、満員電車の痛勤はしないでよい。

⑤ ゴルフもテニスも、おこずかいの範囲内でいつでも楽しめる。

⑥ ショッピングや趣味の講座などはいつでも近くで楽しめる。

⑦ 福祉・医療施設や文化施設は、近くの中心都市にあって、行こうと思えばいつでも行くことができる。

⑧ 道路はピーク時間に多少の混雑があるだけで、大体予定通りの時間に到着することができる。

⑨ 自動車の運転ができない人のための公共輸送機関が整備されている。

 思いつくことを書くだけでこれだけあるのですから、この他のことも入れると、今後実現したいことは山ほどあるはずです。

 つまり、これからのまちづくりは予測に基づく事業展開をするのではなく、ある地域についてのシビルミニマムを決めて、その実現の方策を住民自身で考えていくことが必要になります。未来は結局見えないので、せめて行くべき方向とその実現方策をみんなで確認することが重要になります。

3 実現の方策

 先ず大都市圏の場合を考えてみましょう。大都市圏の場合は所得の格差が大きいので、必ずしも全員が要求を満たせることにはなりません。特に住宅については希望面積より狭くなってしまうでしょう。また、土地付きを希望しても、土地の絶対量が足りないのですから、それは無理というものです。駐車場を持って、近くに公園も作ってということになれば、相当程度の人に共同住宅に住んでもらうことになります。言い換えれば、狭い土地で道路も無いようなところの住宅地は再開発をして、土地の共同利用と公共用地の創出をしなければなりません。もちろんみんなが使う幹線道路の整備に反対するような人は、大都市に住む資格がありません。もっとも、計画そのものに納得できない場合はとことん議論しなければいけないことは当然ですが。これらを実現する手法として代表的なものは土地区画整理事業と市街地再開発事業です。土地区画整理事業の財源は保留地処分金で、市街地再開発事業の財源は保留床処分金になります。今までの実績をみての減歩率論争や権利変換率論争は無用にしなければなりません。何しろこれ以外の財源は期待できないのですから、自分たちで必要な資金を生み出す必要があります。前述の目的を達成するための不退転の覚悟が必要です。問題は換地や権利床が少なすぎる場合です。これは現在所有している資産の額が足りないのですから、融資を受けてでも買い足していただく必要があります。また、借家人も家賃が上がることは覚悟しなければなりません。それが無理であれば、多くの人の幸せのために転居することも仕方ないかもしれません。このようなルールができていないから大都市圏は混乱しているのです。

 次に地方圏を考えてみましょう。地方圏での問題は職業機会です。一定の所得さえあれば何でもできるのが地方の良さですが、その所得の機会が少ないことが問題となります。現在は地方交付税交付金や国庫支出金で大都市圏の所得を地方に回しておりますが、これからは地方分権と地方の自立政策とで経済的にもなるべく自立することが求められます。従って、何らかの方法で所得を得る工夫か無ければ地方はすたれてしまいます。地場産業を興したり、企業誘致やSOHO等の活用により地方にいながら所得を得たり、あるいは卓越したホスピタイテイによって大都市圏の人から観光等による所得の移転をしてもらうしかありません。所得さえ確保できれば地方では何とかなる解決策があるはずです。所得の目途がたてばいよいよ市街地についての土地区画整理事業や市街地再開発事業が必要になります。その時減歩率や権利変換率で無用な反対をしていたのでは、望ましいまちづくりはできません。大都市圏ほど土地や床に対する需要が強くないのですから、事業の成立さえ危ぶまれることになります。特に現在問題とされている中心市街地は、相当な公共用地を創出しないと自動車時代に対応できないでしょう。身を切る覚悟で土地を出し合うことが求められています。

4 おわりに

 これからのまちづくりは、資金的にも今までほど恵まれず、一方では住民参加の中で十分な議論をすることが必要になります。そのための地域のリーダーが必要です。リーダーは役所でもよし、政治家でもよし、都市計画の専門家でも良いでしょう。いい人が良い町と知り合うことによって、その町の将来が決まると言っても過言ではありません。また、住民サイドにそのような人を見つけだす目がなければいけません。ひとがますます大切になることを申し上げて終わりといたします。