(本稿は1999年10月、土木学会・土木計画学研究全国大会で発表した者である。
「土木計画学研究・講演集22(2)、p.471-474」を参照されたい。)
小浪博英**
Hirohide Konami**
*キーワード 都市計画、市街地整備、計画手法論、市民参加
** フェロー 博士(工学)東洋大学国際地域学部国際地域学科
〒374-0193群馬県邑楽郡板倉町泉野1-1-1
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1.序
少子化に伴い我が国総人口の減少が予測される現今ではあるが、人口の移動、居住または事業所環境の改善への要求等に伴い、新市街地とは限らないが、都市開発そのものの重要性が薄れるということは考えられない。例えば、高齢化に伴う居住形態の変化が子供との同居を志向する場合は、相当規模の新たな宅地需要を生み出すものと考えられ、事業所にしても、少子化に伴い新たな人材確保が困難となった場合、その事業所環境を改善することは人材確保の一助となる。これも新たな宅地需要の要因となる。また、一人っ子同志が親の財産を受け継ぐ場合、両家の資産の質にもよるが、これらを原資として新たな宅地を求めることは十分考えられる。
本稿は、今後とも都市開発の重要性が薄れることは無いという前提に立ち、都市開発の阻害要因とその軽減策について考察しようとするものである。
2 都市開発の阻害要因
都市開発の阻害要因は、(1)許認可等の制度によるもの、(2)採算等の経済条件によるもの、(3)環境問題によるもの、(4)開発手法や税制等が周知されていない、または、誤解されていることなど知識の不足によるもの、(5)土地価格の急激な上昇または下降に伴う計画的開発意欲の減退等の社会的要因によるもの、(6)地域におけるコミュニテイの未形成、人間関係のこじれ等、人間関係によるもの、(7)地権者の税金対策や家族の健康状態等、個人的要因によるものに分類できる。(法制度と採算性は、阻害要因と呼ぶのは適当でないかもしれないが、本稿では開発者の立場に立ち、あえて阻害要因とした。)
ここで、全日本土地区画整理士会から出版された「区画整理300の質問に答える」(注1)に掲載されている質問項目を上記7分類に当てはめてみると、制度に関する知識不足に答えるものがほぼ全てで、そのほかは、環境問題、コミュニテイ問題のほか、地権者負担金、税金対策、農業継続、生活保護に関する個人的問題に答えるものが合計16問あるのみである。他の問答集(注2)についても同様のことがいえる。これは、出版物が主として行政あるいは開発者対地権者という想定で編集されていることにもよるが、上記(5)、(6)、(7)に対応する、いわゆる地権者対応に関する部分が手薄であることを示している。
次に、平成9年6月9日に行われた第52回都市計画中央審議会答申から、都市整備の方向として取り上げられている主要点を整理すると次のようになる。
1.「量的拡大型」の都市整備から、既成市街地のストックを活用した住宅・社会資本の再充実を中心とする「質的充実型」の都
市整備に施策の重点を移行する。
5. 地方分権型の支援を行う。
これらの項目は、@、E、Fのように、まちづくりの基本的方向に関するもの、A、B、Cのように、住民と深くかかわりつつ進めるべきもの、および、Dのように今後の中央政府の姿勢に注文をつけたものとに分けられる。また、前述の分類との関係を整理すると、制度に関する部分は@〜Fの全体で対応すべきであるので除外して、採算等の経済条件は@、E、Fに、環境問題はFに、住民の啓蒙と社会的要因についてはA、B、Cに深く関係してくるが、人間関係と個人的要因については何ら記述はない。強いていうならば、人間関係と個人的要因は、その内容が複雑・多岐にわたり、開発者の個別の対応によらざるを得ない部分が多く、審議会での議論になりにくかったものと考えられる。
従って、今後の都市開発を円滑に進めるためには、行政側は制度の改善、経済的支援、環境問題への対応、制度等に関する住民の啓蒙、まちづくり等を議論する場としてのコミュニテイの形成を重点的に進めるべきであり、一方、開発者側は複雑な人間関係の中で円滑に合意形成を進めるためのノウハウを行政とともに究明する必要がある。その具体的方策について次に考察する。
3 阻害要因軽減の方策
制度に属するものとしては、計画・許認可等の法制度、開発指導要綱等の条例、これらに関連する各種基準、通達、規則等がある。これらにより開発事業の断念、あるいは遅延をきたすもののうち、事業採算と環境問題に関するものについては後述するので、ここでは除いて整理すると次のようになる。
行政手続きに関する事業の断念または遅延の事例としては、手続きそのものが複雑かつ多機関にわたり、あるいは要求される資料が膨大であるため長時間を必要とする場合がある。その例は、各種都市計画との調整、大規模店舗の立地に関する調整(法改正後も交通などの調整が残されている)、区画整理を行う場合の農林業との調整、臨港地区における港湾計画と都市計画の調整、事業予定地に国・公有地を含む場合の土地の処理に関する調整、埋蔵文化財包蔵地における文化財調査等がある。これらについて取り組み方を間違えると、事業規模の縮小あるいは断念をせざるを得ない情況に追い込まれる場合がある。
これらの負荷を軽減するためには、制度の改廃、チェック項目の削減、権限の委譲、行政窓口の一本化、判断基準の公表・明確化、審査・調査期間の短縮が必要とされる。これらは現在行政改革の一環として各方面で検討されているので、その結果に期待することとなる。
基準等に関する事業の断念または遅延の事例としては、雨水流出の増加に伴う調節池の設置、地域森林計画地域における樹
林地の確保等に関する開発主体と行政側との調整等がある。これらは行政側に基準が設けてあり、それに沿って準備を進め
れば良いのであるが、必ずしも円滑に進まない場合を次に列挙する。
・基準を公開し、難解なものについては解説書を用意する。
・適用地域別の規定がある場合は、適用地域を明示する。
・人事異動がある場合は、議論が継続されるように双方に記録を残しておく。
・窓口の一本化は行政改革とも絡むが、関係部局同志で申し合わせをしておいてもらうことと、市民の立場からは、窓口自体が分からない場合もあるので、別途窓口課を設置する方法もある。もっとも、窓口の職員を教育しておかないと効果はあがらないが。
(2)経済的要因
経済的要因はまさしく事業の採算であり、地域にとって必要な事業をいかに助成するかということになる。換言すれば、地域にとっての必要性をいかに評価し、それを行政に反映させるかということになる。現在は、主として都市計画の手段に委ねられており、都市計画施設の整備、再開発に関する都市計画の実現等に対し、予算の範囲内で助成がなされている。
都市計画の実現をひとつの尺度とする考え方は説得性があるが、予算の範囲内でということになると、行政の姿勢の違いで地域ごとに大きな差異を生ずることとなる。例えば、組合区画整理に対し、都道府県独自の助成を行っているところがある一方で、全く助成する姿勢を見せないところもある。
開発者の採算計算を容易にするための方策は次のように考えられる。
・かって東京都が向こう10年以内に実現すべき都市計画を選定して公表したように、全ての都市計画について実現の急がれるものを指定し、その実現を図る開発事業については全額助成する制度を設ける。
・PFI (Private Finance Initiative)の導入を積極的に図る。
・プロジェクトについて地域への貢献度を評価する手法を開発し、貢献度に応じて税・財政上の助成を行う。
環境問題については典型7公害に関するものと、貴重な動植物の保全に関するものとに分けられる。前者については環境基準が整備されており、また、公害防止技術の進歩により、問題は徐々に解決される方向であると考えられるが、環境影響評価法の施行を控え、スコーピングとスクリーニングにおいて若干の混乱を招く恐れがある。スコーピングとスクリーニングについて、その判断基準を明確にすることが要求される。
後者については、河口堰における魚の遡上の問題、愛知万博会場などにおけるオオタカの問題など、必ずしも判断基準が明確ではなく、更なる研究が必要とされている。しかし、知見の及ばない場合にどうするか。開発を止めさせてしまうのかという問題について当面の方針を決めておく必要がある。
例えば、何処が分からないのかを明確にし、当該事業を実施する中で部分的にせよ知見を得ることができるならば、その事業をモデル的に実施させるのもひとつの解決方法である。これをしないで、事業の中止ばかりを求めていては、いつになっても知見の集積ができない。
住民の知識の不足については、開発者、行政側双方の取り組みが必要となる。また、重要なことは、住民サイドに勉強する意思がないところに啓蒙をしようとしても、その効果には疑問がある。つまり、住民サイドにいかに勉強する意思を持たせるかが課題であり、これは日頃からの住民意識の高揚がなければできないことである。
多くの場合、知識不足により開発の意義が理解できない場合、住民サイドは現状維持を求めてくる。伊豆大島の元町において火災復興土地区画整理事業を提案した場合は、模型により復興後の市街地を見てもらうことが住民理解の向上に有用であった。また、高松港頭地区においては鳥瞰図が住民の理解を深めることに役立った。
このように、知識不足に対応するためには次のような対策が考えられる。
・日頃から地域の将来を考えるような集会を定期的に開いておき、住民意識の高揚を図る。
・住民との勉強会においては、なるべくビジュアルなものを活用し、直感的な理解を促進させる。
・土地区画整理事業や市街地再開発事業は、事業開始に至るまでの熟成期間が長く、また、タイミングを外してしまうと住民の意識も変化しがちであるので、補助採択等において常時採択の道を開いておく。補助事業の採択が契機となり住民の勉強会が形成されることが期待できる。タイミングを間違うと全く逆の効果になることを忘れてはならない。
(5)社会的要因
社会的阻害要因は社会全体の動きと開発者の将来予測によるところが大きいので、これを軽減させる方策は少ない。強いていえば次のような方策が考えられる。
・公共事業はその事業期間を5年程度とすることが一般に定着しており、また、民間事業についても短期間で利益の見込める事業に指向する傾向がある。しかし、事業期間が短いほど景気変動の影響を強く受けるので、公的事業にあっては長期間にわたる大規模ニュータウン開発、大規模土地区画整理事業等を再評価するとともに、民間事業にあっては、大規模事業についての日本開発銀行による低利融資等を充実させる。
(6)人間関係による要因
人間関係による阻害要因の除去は開発者の努力に期待するしかない。開発者が不用意に地元に入ったことによる、本家のプライドに基づく分家との意見対立、賛成派の方に先に説明したことによる反対派の意固地な抵抗な発生等、その多くは開発者のノウハウによる解決が求められる。しかし、これらについても日頃から地元のリーダーがしっかり育っていれば、リーダーを通じて説得することによりかなりスムーズに運ぶことが多く、そのための方策として次のようなことが考えられる。
・地区別にタウンマネージャーを育成し、必要に応じて行政側から指名しておくとともに、日頃からタウンマネージャーを通じてまちづくり情報を提供しておく。
・
補助金・負担金による財政的支援、税の減免等の税制、
阻害要因
3 土地区画整理事業を例とした問題事項
4 阻害要因の軽減方策
5 結語