オランダのまちづくり

(本稿は「区画整理」誌 2002年8月号に掲載されたものです。

写真などをここでは省略してあります。)

 

東洋大学大学院国際地域学研究科教授 小浪博英

 

1 オランダの概要

 オランダのハーグで開催された、第26回世界都市開発会議(INTA)に参加する機会を得て、オランダに初めて足跡を残すことができた。お陰で、Dutch Hollow Land Netherlandsの何れもがそれぞれの語源はあるものの、同じオランダを意味していることが良く分かった。Dutchは正確には「オランダ人」または「オランダの」という意味で、オランダ国を指しているものではない。Hollow Land は中世における統一前の一地方の名前で、Netherlandsはドイツの高地に比して低地という意味であり、時代が下がってからつけられた統一公式名称である。

 また、家を空けることが多い海洋民族にはカソリックの戒律が日常の生活にマッチせず、新たにプロテスタントとなってオランダに居を構えることが好都合であった。そのため、他国の多くの人々がオランダを基地として探検に出かけ、ニュージーランドがオランダのジーランド地方の名前を取っているように、オランダの地名がそのまま外国の国名や地名になっている例が多い。そのオランダも、完全に独立するのは17世紀からで、徳川幕府と永年にわたる交流が続くのも、そのせいであろうかと思われる。

 オランダの人口は約1600万人、面積約4万平方キロメートル、国土の約四分の一は海面下である。ちょうど日本の九州と比肩できる。六百余の都市は何れも人口100万人以下で、最大のアムステルダムでも70万人余、アムステルダム都市圏で見ても150万人程度である。これは、厳しい計画制限のよるものという説もあるが、むしろ旧西ドイツのように国土に張り巡らされた完璧に近い鉄道、道路、運河といったインフラストラクチャーと、16世紀以前はそれぞれの都市地域が独立した国家を形成していたという歴史によることのほうが大きいのではと思われる。

 国土の中心はランドスタット、または、デルタメトロポリスと呼ばれる東西約50キロ、南北約100キロの低地帯で、ここにアムステルダム、ロッテルダム、ハーグ、ユトレヒトなどの都市が集中している。この地域の人口が約650万人で、国土の全人口の三分の一を占めている。これらの主要4都市の中間地域はグリーンハート呼ばれる田園地帯で、緑が良く保全されている。これら4都市を結ぶ交通網は大変便利に整備され、鉄道を例にとると、これら4都市間は朝の6時ころから夜の9時過ぎまで10分〜30毎の快速電車が規則的に走っている。日本のようにイレギュラーなダイヤではないので、一度覚えてしまえば時刻表はいらない。片道30分みておけば大概大丈夫である。

 

 国政は王家を中心とする立憲民主主義国家で、国会は75名の第一院と、150名の第二院からなる。日本の県に相当する州は12で、その下に630余りの市がある。第一院は州議会議員による選挙で選ばれる間接選挙制で、第二院は直接国民により選ばれる直接選挙である。本年5月には第二院選挙が行われ、8年続いた政権が、移民規制、治安の向上、規制緩和、幹線道路拡張、原発閉鎖延期等をうたう右傾政党に取って代わられ、そのまま来年3月の州議会選挙とそれに続く第一院選挙につながっていくのかどうかが注目されている。ちなみに市長は市議会の推薦で国王が任命し、担当別の数名の副市長が直接選挙で選ばれる。

 

2.まちづくりの実際

 さて、オランダのまちづくりであるが、土地については第一次世界大戦と第二次世界大戦の間に公有化が進められて一部の例外を除き殆どが公有化されたため、我が国とは全く異なる条件下にある。すなわち、国が策定する国土空間計画、州が策定する地域空間計画、市町村の作成する開発計画のうち、規制を伴うものは開発計画だけであるが、もともと土地の所有権が公的サイドにあるので、その指導・誘導力は我が国の比ではない。ここではその一例として、アムスデルダムの大規模ニュータウンであるアルメア地域と、ハーグの大規模再開発であるハーグ中央駅周辺地区を紹介する。

 

(1)アルメアニュータウン

 アルメア地区はアムステルダム都心部から東へ15〜30キロメートルに位置するニュータウンである。アルメアはアムステルダムからロッテルダムに至るランドスタット地域の最北端の主要都市として成長することを目して、1966年の国土空間計画に定められた。当時の目標人口12.5〜25万人、職住近接の自立都市である。爾来、鉄道や道路の建設、宅地整備、スポーツ・レジャー施設整備等が進められ、現在では人口約16万人の中規模都市となっている。当初はアムステルダムに通勤する低所得階層の住宅地であったが、現在では各種イベント等も多く開催され、海外の進出企業とも相まって、高所得者層をも引きつけている。

 開発手法は、もともとが国有地なので土地の取得は必要でなく、農家への補償対策さえ進めば自由に計画図が作れるという恵まれた環境であった。従って、オランダの他の地区も同じであるが、区画整理の入り込む余地はなさそうである。アルメアが成功した理由は主として次のように考えられる。

・荒れ地になっていた干拓地に、基盤整備、緑化、水面整備などの相当規模の先行投資をして、初期入居者の生活環境の水準を一定以上に保てたこと。そのための国費投入がなされたこと。

・全てが国有地であり、大規模土地取得の必要がなかったこと。

・政府の既存組織であった現地の干拓推進部が初期の支援を惜しまなかったこと。

 

 今後においては、職・住比を1:1に近づけることが望まれ、次のような課題が提案されている。

@ 緑地の量は十分すぎるくらいであるが、植樹のバラエテイと利便施設が不備である。

A アルメアは多くの水面に恵まれてはいるものの、それらは何れも堤防の向こうであり、必ずしも生活環境にとって望ましい利便性を提供していない。

B 外部からのアクセスについて、鉄道乗継ぎの便の改善と高速道路の改良を要する。

C 内部の交通について、主要分散路の改良を要する。

D アルメアを更に特徴付けるような広域施設、居住施設の整備が必要。

E アルメアの住宅は主として平均的所得層に偏っているので、若年層や高所得層の住宅を更に供給し、地域の住宅市場を活性化させる必要がある。

F 着工から既に25年を経過し、更に住宅供給が続いている現状に鑑みると、年代を経た一部地域については既に再開発を必要としている。

G 職場については、今後2010年まで年平均5000人の雇用を生み出していく必要がある。

H 既存の産業地区の他に、高度な産業や事務所用地を供給し、新しい企業を誘致・育成する必要がある。

 

 以上をみてくると、何やら我が国の多摩ニュータウンでの議論に類似した点があることが読みとれる。

 

(2)ハーグ中央駅周辺再開発

 ハーグの国鉄は郊外を通過しているので、通過電車用の駅であるハーグHS (Hague Holland Station) 駅と、終着用の尖塔タイプに引き込んだハーグ中央駅 (Hague Central Station) とがある。両駅の間は市電で3駅くらい離れているので時刻表を見るときは十分気を付けなければならない。ハーグは女王陛下の平時の居所で、国会や中央官庁があり、国際司法裁判所などの国際機関も多いが、オランダの首都はアムステルダムである。アムステルダムには女王陛下の公式な宮殿がある。

 中央駅周辺は古くからの商業地で、道路用地は概ね確保されているが、他の地区でも見られるとおり、時代と共に都市環境が悪化してきたため、ブロック毎に古い商業施設や住宅を取り払って、必ずしも隣接とは限らないが、22棟の再開発ビルを建てようとするものである。計画ビルの分布範囲は南北に約1.5キロメートル、東西に約1キロメートルに及ぶ。完成は2007年を予定し、事務所床35万平方メートル、15,000人の雇用を生むことになっている。総予算は約2,500億円で、官民のパートナーシップを売り物にしている。

 

 この地区の特徴は、ひとつひとつの建物が世界の著名な建築家の手によるものであり、形状や色彩はブロック別に異なっているが、全体としては落ち着いている。開発計画は市で審査しているが、市の担当者の話によれば決着まで多くの議論が出され、なかなか大変だそうである。写真で見るとおり、建物の中にそのまま市電が入りこんで行くさまは、我が国の堅いお役所仕事との違いを感じさせる。

 

3.まちづくりの特徴

 ユトレヒト大学教授のアントン・クルーケル氏は「地域開発」2002年5月号の誌上で、オランダのまちづくりを2つの点で捉えている。ひとつは、まちづくりというよりは地域形成論であるが、ランドスタット地域には、国際空港と伝統産業を有し、首都でもあるアムステルダム、ヨーロッパの経済・物流拠点であり、かつ、国際空港を有するロッテルダム、中央政府と女王陛下の居所を有するハーグ、コンベンション機能を持った学園都市であるユトレヒトが適当に分散配置されており、何れ世界の大都市が迎える限界がここには無いこと、ふたつ目には、開発計画の権限が市にあるとはいえ、基本的には国、州、市という上意下達であり、現代の意思決定プロセスには合わなくなってきていることである。前者は世界に誇れるが、後者は先進国として再考しなければならないとされている。

今後においては中央の影響力は減退し、市が土地のリース権を盾に強力な行政指導をしていくことが考えられるが、一部の自治体に市有地を売却して財源にするケースも出始めたそうである。

最後にハーグとライデンの住宅地を写真で紹介して終わりにする。